CO2経皮吸収技術とは
経皮吸収技術とは、皮膚から薬物などを体内に入れる技術のことです。
皮膚は本来、外部からの異物の侵入を防ぐバリア機能を持っています。そのため、皮膚から薬物等を入れるためには、そのバリアを超えなければなりません。
重要な皮膚バリアである角層は、疎水性といって水を弾く性質があり、同時に油と馴染みが良い脂溶性の性質を持ちます。そのため、ステロイドのような脂溶性薬物は吸収されやすい一方、ビタミンCのような水溶性化合物は、いくら高濃度の化粧水等にしてもほとんど吸収されません。
角層の下の表皮や真皮は水分が多く、水溶性化合物が吸収されやすい反面、脂溶性化合物は吸収されにくい性質があります。
皮膚のこのような複雑な構造、性質が薬物等の経皮吸収を困難にしています。
それに対し、CO2(二酸化炭素/炭酸ガス)は水にも油にも溶ける特殊な物性を持っています。その性質が、CO2の経皮吸収を他の化合物等と比較して容易にしていると考えられます。
溶媒 | CO2 | O2 | N2 |
---|---|---|---|
水(25℃) | 105 | 2.8 | 1.6 |
大豆油 | 102 | 14.1 | 8.6 |
メタノール(25℃) | 760 | - | - |
もっとも、水にも油にも溶けるからと言っても、なんの工夫もなくCO2が経皮吸収されるものではありません。ボンベの炭酸ガスを皮膚に吹きかけるだけでは、CO2特有の作用は得られないことは容易に想像がつくと思います。
CO2が経皮吸収されるためには、皮膚などの組織の水に溶ける必要があります。ただし、CO2は水と反応して炭酸(H2CO3)を生成しやすく、炭酸はイオン解離しやすい性質があります。イオンは皮膚のバリアを通過しにくいことから、CO2の経皮吸収はそれほど簡単ではありません。
CO2が経皮吸収されるためには、水と結合したり、水と化学反応して炭酸となってもよいのですが、イオン化してはほとんど経皮吸収されません。CO2が経皮吸収されるためには、水に溶けた状態で、かつ、イオン化していない状態である必要があります。このようなCO2を私たちは「分子状二酸化炭素」と呼んでいます。
CO2の経皮吸収は、この分子状二酸化炭素を効率よく生成し、皮膚のバリアを通過できるかが重要と考えられます。
CO2TECH株式会社は、科学的知見に基づき、独自のアイデアでCO2経皮吸収技術を開発しています。
CO2経皮吸収技術の進歩・進化
CO2の経皮吸収方法・技術にはどのようなものがあり、どのように進歩、進化してきたかを概観します。
なお、技術の進歩・進化の内容等については、主に当社独自の見解であり、その内容をすべて保証するものではありません。
天然炭酸泉(人類誕生?~)
CO2の経皮吸収技術とは呼べませんが、経皮吸収方法として、古代より炭酸泉が使われています。炭酸泉の溶存CO2濃度は常温常圧で最大2,000ppm=0.2%以下です。日本では温泉法(昭和23年7月10日法律125号、最終改正平成23年8月30日法律第105号)により、炭酸ガスが250ppm=0.025%以上溶け込んだものを炭酸泉と定めています。適応症(効能)は切り傷、末梢循環障害、冷え性、自律神経不安定症です。
ヨーロッパでは古くから炭酸泉が療養に用いられてきており、心臓の湯と呼ばれることもあるように、主に循環器系への効果が認められています。より具体的には、小動脈閉塞性疾患、皮膚微小循環障害、小動脈性高血圧、静脈不全(特に冷水適用,熱輸送で“静脈保護”)、軽度から中等度の心不全( NYHA Ⅱ期まで)、疼痛性ヂストロフィー( Sudeck 病)Ⅰ期、線維筋痛、自律機能調節障害、難治性外傷,局所性血流障害に対する有効性が科学的検証により認められているとの報告があります(B. Hartmannら、人工炭酸泉 1( 1) , 010 ~ 016, 1998)。
炭酸泉は一般に泡の温泉というイメージがあると思われますが、実際に炭酸泉に入ると皮膚表面に泡がつきます。炭酸ガスという言葉からの連想で、いかにも泡(ガス)に効果がありそうに見えるかもしれませんが、実はこの泡には生理作用がないことが報告されています(入來 正躬、炭酸泉誌 4(1), 39 ~ 48, 2003、他)。
さらに、皮膚の表面が泡で覆われていると、炭酸泉に溶けたCO2の吸収が、泡のバリアーで妨げられます。炭酸泉に入ったときに、皮膚からCO2をより多く吸収させるためには、これらの泡を取り除いたほうが良いのです。
なお、天然炭酸泉以外には、地中から吹き出る炭酸ガス(炭酸噴気)も利用されるようです。液化炭酸ガスボンベから出る炭酸ガスは、水分を一切含まない、ドライなガスであり、そのまま皮膚に吹き付けてもほとんど吸収されませんが、炭酸噴気は水蒸気を含むため、基本的には炭酸泉が霧状、もしくはミスト状になったものと考えられます。そのため、炭酸噴気を浴びることで炭酸泉と同様の作用を得ることができると考えられます。
炭酸噴気は高濃度にCO2を含んでいると、CO2は比重が大きいため(およそ空気の1.5倍)、空気の流れが少ない洞窟内などでは、低い場所に炭酸ガスが溜まり、吸引すると危険です。
炭酸ガス皮下注射(1923~)
1932年にフランスの Royat Spaで、主に関節の障害や下肢の虚血疾患、及び糖尿病患者の皮膚の治療を目的として、最初の炭酸ガス皮下注射が行われたとの報告があります(Zelenková H, Glob Dermatol, 4(1): 1-5, 2017)。
炭酸ガス皮下注射は、温泉に出かける必要も、入浴の必要もないだけでなく、高濃度の炭酸ガスを使用することで、炭酸泉以上の高い効果を狙ったものと思われます。
炭酸ガス皮下注射は経皮吸収ではないものの、CO2吸収技術の記念すべき第一号と見られ、現在も Carboxytherapy としてイタリアやフランス、ハンガリー、南米、オーストラリア、韓国、シンガポールなどで普及しているようです。日本国内でも医療機関で、主に美容目的で炭酸ガス注射の自費診療が行われています。炭酸ガス皮下注射は組織の血流や皮膚の柔軟性改善、局所の脂肪沈着改善等に有効とされています。
炭酸ガス皮下注射は、直接人体にCO2を入れるため、一見効率の良い経皮吸収方法に見えます。しかしながら、上で説明したように、CO2が経皮吸収されるためには、炭酸ガスが水に溶けた溶存CO2でなければなりません。炭酸ガス皮下注射では、注射されたガスが皮膚組織の間に溜まり、皮下組織が剥離を起こして皮膚が膨れます。皮膚が膨れるということは、注射された炭酸ガスが吸収されていないことを意味します。また、皮膚の剥離は、皮膚が傷ついていることを意味します。そのため、内出血を起こすこともあるようです。
いったん傷を作り、再生する新しい組織で古い組織を置き換えるという考え方のち療法は昔からありますが、現代においても、組織再生促進力のある炭酸ガスを使いながら、その炭酸ガスで傷を作るという点をユニークというべきなのでしょうか。
炭酸ガス皮下注射による腫れや痛みは10分程度で消失するということなので、皮下に溜まった炭酸ガスが約10分間で皮膚組織の水分に徐々に溶け、溶存CO2となって組織に吸収されると考えられます。天然炭酸泉では報告されていない、皮下脂肪の減少作用が報告されているので、天然炭酸泉より作用が強いと思われます。
ただ、論文では、炭酸ガス皮下注射は補完医療として位置づけられており、比較データはないものの、炭酸ガスの経皮吸収だけで、難治性骨折や筋損傷、がんなどの治療が可能な、神戸大学医学部を中心に研究、実施されている、低侵襲高濃度炭酸ガス経皮吸収療法のような作用の強さはないものと推測されます。
人工炭酸泉-炭酸入浴剤(1982~)
炭酸入浴剤は、炭酸塩と酸の化学反応により、お湯の中でCO2(二酸化炭素/炭酸ガス)を発生させる固形製剤です。わざわざ温泉まで出かけなくても炭酸泉を手軽に楽しめるのは大きな進歩と言えるでしょう。温泉好きの日本人にはすっかりおなじみの製品ではないでしょうか。
天然炭酸泉にはCO2濃度が及ばず、炭酸入浴剤は通常の使用量(1~3個/150l)で はCO2濃度が100~300ppm(0.01~0.03%)という低濃度(萬秀憲ら,人工炭酸泉に関する研究(策3報):日温気物医誌48:79-85,1985)であり、入浴後のポカポカ感はあっても、治療レベルのCO2の生理作用が十分得られる濃度ではないようです。炭酸入浴剤には炭酸ガス皮下注射のような侵襲性はありませんが、治療法としてのポテンシャルは高いとはいえません。
人工炭酸泉-人工炭酸泉製造装置(1997~)
炭酸入浴剤のCO2濃度が天然炭酸泉に及ばない問題を、液体のガス交換で人工肺胞として用いられる中空糸膜を利用し、水への効率的CO2の溶解により解決した人工炭酸泉製造装置は、1,000ppm(0.1%)以上の高濃度炭酸泉が製造可能な技術です。炭酸入浴剤の溶存CO2濃度の限界を超えた進歩と言えるでしょう。
シードル九州㈱の人工炭酸泉製造装置シードルエコの説明より引用http://cidre-kyushu.com/shidoru_jiu_zhou/shidorueko.html
中空糸膜方式の人工炭酸泉製造装置による炭酸泉のCO2濃度は1,000ppmを超え、糖尿病性潰瘍の改善効果などが報告されています(森山 善文, 今注目の人工炭酸泉について, さくら 106 号、2015年2月、他)。
森山 善文, 今注目の人工炭酸泉について, さくら 106 号より引用
さらに治療効果だけでなく、疲労回復効果も認められています(西村 直記. 高濃度人工炭酸泉浴による疲労回復効果-睡眠深度および心拍変動を指標として- . 2018;1:1-10、他)。
中空糸膜法以外にも、微細なCO2の気泡発生装置を用いた微細化気泡直噴方式の人工炭酸泉製造装置、気液混合撹拌式の人工炭酸泉製造装置もあり、低コストで場所を取らないなどの特徴を謳っています。しかしながら、気泡の大きさにもよりますが、水中の気泡から水に気体が溶解する比率は少なく、液面のゆらぎが気体の溶解に重要であるとの理論があり、実際に実験室で実験したところ、たしかに液面を揺らすだけで相当量のCO2が溶解すること(データ非公表)、中空糸膜法との比較データがないことから、これらが炭酸泉の製造方法として優れた方法なのかが判断できません。
人工炭酸泉製造装置で作られる人工炭酸泉は侵襲性がなく、なかでも溶存CO2濃度が1,000ppmを超えるものは、疲労回復や創傷治癒促進作用が認められており、治療法としてのポテンシャルは高いと考えられます。
炭酸ガスパック(1997~)
基本的には炭酸入浴剤のCO2発生原理、すなわち炭酸塩と酸の化学反応を利用しています。
炭酸入浴剤が炭酸ガスの発生に必要な原料を一つの固形製剤にまとめているのに対し、炭酸ガスパックは、主に酸を顆粒や粉末製剤とし、炭酸塩をゲル状製剤とした、2剤の組み合わせからなります。原料の種類にもよりますが、原理的には逆の組み合わせも可能です。使用時にこれらを混合することで、ゲル中で炭酸ガスが発生します。発生した炭酸ガスがゲルの水に溶けて溶存CO2となり、その水がゲルからしみ出して角層に移動し、CO2が経皮吸収されると考えられます。CO2の経皮吸収様式は、基本的に炭酸泉と同じと考えられますが、炭酸泉とは違い、ゲルの粘度が高いため、皮膚に塗ったときに垂れ落ちない、塗れる炭酸泉とも言える進歩です。効能効果に関しては、基本的には炭酸泉と同じと考えられます。
炭酸ガスパックは、炭酸泉の水を高粘度のゲルに換えたものなので、溶存CO2濃度は常温常圧では炭酸泉と同じく2,000ppm(0.2%)を超えることはありません。
市場には様々な炭酸パックなどと称する化粧品があり、溶存CO2濃度が2,000ppmを超える高濃度であることを標榜する製品もあります。普通の環境下でそのような高い溶存CO2濃度が達成されるのであれば、もはや超科学としか言いようがありません。
ハイドロジェル塗布式炭酸ガス治療システム(2001~)
角層の空隙を、ハイドロジェルと呼ぶゲル状物質で埋めて、皮膚にCO2の通り道を作るとともに、そのゲル状物質に炭酸ガス状を溶解させることで、皮膚内部に溶存CO2の貯蔵槽を作り、そこからCO2を効率的に経皮吸収させることを目的とした技術です。ハイドロジェルはCO2経皮吸収促進剤と位置づけられます。
炭酸泉とは違い入浴する必要がないだけでなく、ほぼ100%の高濃度CO2を、原理的には無限に吸収可能です。治療部位の皮膚周囲の炭酸ガス濃度を高めるために、対象部位をビニール袋などで密閉し、そこに炭酸ガスを充填します。
ハイドロジェル塗布式炭酸ガス治療システムの写真(上左)は PLoS One. 2011;6(9):e24137.Epub 2011 Sep 8. より引用
これまでの技術が、温泉地に行かなくても炭酸泉に入れるようにしたり、炭酸泉を皮膚に塗れるようにしたりという、炭酸泉をベースにした技術です。すなわち、炭酸泉から溶存CO2を皮膚に移動させる技術です。
それに対し、本システムは、CO2の経皮吸収を、生体組織の構造から考察し、化学的手段で効率的な経皮吸収を可能にした点が画期的と言えます。炭酸泉の延長線上を進んできた従来技術から見ると、単なる進歩というよりも、進化と言えるでしょう。本システムを使った治療研究では、炭酸泉では知られていなかった、さまざまなCO2の作用が発見され、神戸大学医学部を中心として、低侵襲高濃度炭酸ガス経皮吸収療法が構築されています。
本システムの特徴の一つは、治療部位の温感が強いことです。患部をビニール袋等で密閉するので、密閉による温感もありますが、炭酸ガスの代わりに空気や窒素ガスをビニール袋等に充満させたときよりも炭酸ガス充満時のほうが皮膚温上昇が強いこと、近赤外線を使った血流測定で、明らかな血流増加(同時にBohr効果も)が認められることなどから、CO2経皮吸収による組織温上昇効果が確認されています。
ただし、本システムは治療部位周囲をビニール袋等で密閉して炭酸ガスを充満させる必要があるため、密閉が困難な部位への適用には限界があります。
分子状二酸化炭素生成装置(2012~)
ハイドロジェル塗布式炭酸ガス治療システムは、実施が比較的簡単で、コストも安く、しかも短時間で高い効果が得られるものの、ビニール袋等による治療部位の密閉の必要性から、四肢以外の部位の治療が困難です。
炭酸泉やハイドロジェル塗布式炭酸ガス治療システムにおける、溶存CO2の経皮吸収の分子レベルでの考察から、経皮吸収されるのは分子状二酸化炭素であり、質量が小さな分子状二酸化炭素は気体にできるとの予測から作られたのが、分子状二酸化炭素生成装置です。本装置は、炭酸ガスボンベのCO2を独自技術で気体状の分子状二酸化炭素に加工することを目的として設計、製造されています。
炭酸ガスは比重が空気の約1.5倍なので、蓋が開いた容器でも、その中に気体状の分子状二酸化炭素を貯めることができます。そのため、下の写真の足湯型装置のような、半開放系装置でも高濃度炭酸ガス経皮吸収療法が可能です。
本装置を使うと、ストッキングや靴下を履いたままでも、足のむくみや疲れが取れることから、布を通して足の皮膚から気体状の分子状二酸化炭素(CO2)が経皮吸収されるものと考えられます。
足湯型分子状二酸化炭素生成装置
炭酸泉は溶存CO2が皮膚表面から角層に滲み込み、皮膚内に移動して経皮吸収されると考えられます。ハイドロジェル塗布式炭酸ガス治療システムでは、角層に滲み込んだハイドロジェル中の溶存CO2が、炭酸泉よりも、血管や筋肉組織等に近い位置から吸収されると考えられます。経皮吸収効率の違いはあっても、いずれも溶存CO2が経皮吸収されると考えられます。
それに対し、分子状二酸化炭素生成装置は、溶存CO2を気体状の分子状二酸化炭素に置き換えるという発想であり、炭酸泉はもちろんのこと、ハイドロジェル塗布式炭酸ガス治療システムと比較しても大きく進化したと考えられます。
下半身用の大型分子状二酸化炭素生成装置を使った整形外科等での使用経験では、坐骨神経痛が1回15分、週2回、2ヶ月間程度の使用による改善例などが報告されています。
ただし、分子状二酸化炭素生成装置は小型化が容易でないため、動物実験が困難であり、実験データがありません。
炭酸ペースト(2018~)
人工炭酸泉製造装置やハイドロジェル塗布式炭酸ガス治療システム、分子状二酸化炭素生成装置のような、炭酸ガスボンベを使うCO2経皮吸収技術は、治療レベルの高濃度CO2の経皮吸収が可能ですが、炭酸ガスボンベが必要であり、主に固定式の装置となるため、持ち運びは困難です。また、炭酸ガスの補充やボンベのメンテナンスが必要で、簡便性に問題があります。
炭酸入浴剤や炭酸ガスパックは、炭酸ガスボンベが不要で、持ち運びも容易ですが、溶存CO2濃度が低かったり、CO2の供給量に問題があります。
炭酸ガスパックは炭酸泉と比較して粘度が高いために、皮膚に塗ったときに垂れ落ちない特徴があるものの、その粘度の高さが、使用後の除去のしにくさとなっています。さらに、成分のほとんどが水であるため、顔や手以外の皮膚には冷たいために塗りにくい問題があります。
ハイドロジェル塗布式炭酸ガス治療システムでは、ハイドロジェルにより、角層内部に溶存CO2の貯蔵槽を作り、これが同時に角層以下の組織と連続構造を作り、真皮等の組織に、ほぼダイレクトにCO2を吸収させることができると考えられ、皮膚の表面から角層内に溶存CO2が滲み込まなければならない炭酸泉と比べて、溶存CO2の吸収効率に優れると思われます。
ハイドロジェルは経皮吸収促進剤なので、炭酸入浴剤や炭酸ガスパックに使われているCO2発生原料(酸と炭酸塩)を、ハイドロジェルに角層に持ち込ませれば、皮膚内でCO2が発生する外用剤(塗り薬)ができるはずです。ところが、CO2発生原料である酸と炭酸塩は、水の存在下で直ちに反応し、炭酸ガスが発生します。
ハイドロジェルの水以外の原料にCO2発生原料を混合してもCO2は発生しませんが、この混合物をハイドロジェルにするために水を加えた途端に、炭酸ガスが発生します。これでは目指すような外用剤は作れません。
そこで、ハイドロジェルに使われている経皮吸収促進技術の基本を活かしつつ、水を使わない外用剤の製造技術を検討した結果、経皮吸収促進剤にCO2の発生原料を含んだ外用剤を作ることに成功しました。この製剤は炭酸ペーストと呼んでいます。
炭酸ペーストは、炭酸ガスボンベが不要で、携帯可能、塗るだけで治療レベルのCO2を発生する、CO2経皮吸収技術の究極の進化型と自負しています。
炭酸ペーストは、角層内にCO2の発生原料を持ち込み、ゼリー状のゲルマトリックスを形成すると想定しています。このゲルマトリックス中にCO2の発生原料が保持され、皮膚の水分により反応が起こってCO2を発生し、貯留され、分子状二酸化炭素として放出されるよう設計しています。
炭酸入浴剤も炭酸ガスパックも、炭酸ガスを発生するときに多くの泡ができます。この泡に生理作用がないことは上記のとおりですが、炭酸ペーストは角層内のゲルマトリックス中でCO2発生反応が起こるように設計しているため、ムダな炭酸ガスの泡は一切発生しません。CO2発生原料である酸と炭酸塩が反応するために必要な水は、皮膚の水分を利用することを想定しています。したがって、ただ炭酸ペーストを皮膚に塗るだけでCO2(分子状二酸化炭素)が発生します。炭酸ペーストは塗布時に温感があり(個人差があります)、冷たくて塗りにくかった炭酸ガスパックの問題点も克服しています。
炭酸ペーストは皮膚のわずかな水分で反応が起こるデリケートな製剤なので、水分には注意が必要です。容器から炭酸ペーストを出すときに、濡れた指で容器の炭酸ペーストに直接触ると、治療部位等に塗る前に、指先で炭酸ガスが発生し、空気中に逃げてしまうだけでなく、容器中の炭酸ペーストに水分が入り、容器内で反応が進んでしまうため、使用できなくなるおそれがあります。保存は湿気の多いところは避け、炭酸ペーストを取り出したあとは、しっかりと容器の蓋を閉めなければなりません。一度容器から取り出した炭酸ペーストは、空気中の水分によっても反応が起こるので、容器に戻してはいけません。
炭酸ペーストは効率的に分子状二酸化炭素が生成、経皮吸収されると考えられ、少量の炭酸ペーストでも、強い作用が得られます。同じ低侵襲高濃度炭酸ガス経皮吸収療法とはいっても、論文が多数出ているハイドロジェル塗布式炭酸ガス治療システムと炭酸ペーストは作用様式が異なると考えられること、炭酸ペーストのエビデンス量がはるかに少ないことなどから比較は困難ですが、神戸大学医学部の基礎、臨床試験データや、他の病院等での使用例から、炭酸ペーストの作用の強さは治療に使用できるレベルであると考えられます。
あらゆる部位に塗るだけで簡単にCO2が経皮吸収でき、治療効果が得られる炭酸ペーストは、CO2経皮吸収技術の最終進化系と考えています。