炭酸ペーストについて

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炭酸ペースト(炭酸ガスペーストと記載されることもあります)は、2020年11月末時点では研究成果の論文発表はまだ行われていません。そのため、炭酸ペーストの効果や安全性については、エビデンスに基づいた記述ができないことをお断りしておきます。

炭酸ペーストの基礎・臨床研究が神戸大学医学部で行われています(例えば既に終了した臨床研究 https://rctportal.niph.go.jp/s/detail/um?trial_id=UMIN000030662 をご参照ください)。
さらに、さまざまな研究が計画され、世界的にもユニークな、神戸大学独自の研究テーマである、炭酸ガス経皮吸収療法の発展と普及が目指されています。
これらの研究により、炭酸ペーストの適応(どんな病気、傷に効果が期待できるか)、用法・容量などの解明が期待されます。これらが解明されるまでは、炭酸ペーストの設計思想に基づいた、試行錯誤を含めた使い方の検証が行なわれ、検証結果を処方設計や製造方法にフィードバックしたり、使い方を変えたりして、炭酸ペーストは進歩しています。
炭酸ペーストについて、以下により詳しくご紹介します。

  炭酸ペーストの使い方


基本的には、ただ塗るだけですが、炭酸ペーストならではの注意事項があります。

1.皮膚表面が乾いていること
 炭酸ペーストは皮膚の水分を利用して二酸化炭素が発生します。皮膚に含まれる水分はわずかな量です。そのわずかな量の水分で反応が生じるということは、皮膚表面にわずかでも水分が存在すれば、そのまま炭酸ペーストを塗ると、皮膚表面で反応が起こり、二酸化炭素が発生することを意味します。発生した二酸化炭素は、その多くが空気中に逃げてしまい、経皮吸収される二酸化炭素が減ってしまうと予想されます。
 次に、分子状二酸化炭素を含んだ炭酸ペーストが、角層に浸透しなければなりません。これでは炭酸ガスパックと同じで、分子状二酸化炭素の経皮吸収効率は下がります。

2.皮膚温が低くないこと
 明確なエビデンスはありませんが、経験的には皮膚温がおよそ25℃以上でないとCO2の経皮吸収は良くないようです。予想される理由としては、皮膚温(組織温)が低いと末梢血管の拡張度合いが低く、血流量が少ないために、CO2の溶解する血漿(血液の液体成分)や、CO2によるボーア効果が起こるために必要な赤血球が少ないからと考えられます。ガスの種類は違いますが、密閉状態のヒト前腕と手におけるヘリウムやアルゴン、窒素ガスのような不活性ガスの経皮吸収が、周囲温度28℃以下では低下するが、28℃以上では温度依存的に直線的に増加することが報告されています(R. A. Klocke, G. H. Gurtner, and L. E. Farhi, Gas transfer across the skin in man, Journal of Applied Physiology. 1963;18(2):311-316)。その理由としても、直接皮膚温(組織温)には触れていませんが、やはり末梢血管の拡張によるガスの溶解容量の増加のためと考えているようです。
 一般的に、薬物の経皮吸収において、皮膚温が高いほど、経皮吸収のバリアーである角層の脂質の流動性が高まり、その結果、薬物の拡散係数が増加して経皮吸収効率が高まるとされています(Roberts MS, Cross SE, Pellet MA. New York: Markel Dekker; 2002. Skin Transport; pp. 1–30)。炭酸ペーストは、角層に浸透して、角層の脂質と混じり合うことを想定しているため、皮膚温が高いことは、CO2の貯蔵タンクが作られやすくなると期待されます。

3.皮膚が乾燥しすぎていないこと
 炭酸ペーストが皮膚の水分を利用して二酸化炭素を発生するため、皮膚中の水分が少ないと二酸化炭素の発生速度が遅かったり、発生量が少かったりなどの問題が生じます。
 ただし、炭酸ペーストの反応性を上げるために、事前に水で皮膚を濡らしたり、化粧水などで保湿を試みても、水分量が多すぎると、過剰な水分によって炭酸ペーストが皮膚表面から流れ落ちたり、皮膚表面で二酸化炭素が発生して空気中に逃散したりして、期待した効果が得られないどころか、逆に効果を低下させることになりかねません。そもそも、皮膚を水で濡らしたり、化粧水で皮膚の水分を増やせるのであれば、顔を洗っただけで、あるいは化粧水等を塗っただけで乾燥肌が解決するはずです。
 炭酸ペーストが角層に浸透すれば、周りのわずかな水分も炭酸ペーストが吸収し、二酸化炭素を発生するので、皮膚の水分を無理やり増やす必要はないでしょう。ただ、温風を当てて皮膚の水分を減らしたり、非常に乾燥した場所で長時間過ごすなどの、皮膚の水分が減るような条件はできるだけ避けてください。

4.濡れた指などで塗らない
 指先や手のひらが濡れていたりすれば、指先で二酸化炭素が発生してしまい、空気中に逃散してしまいます。必ず乾いた指や手のひらで炭酸ペーストを擦り込んでください。
 指先が乾いていると思っても、指先の皮膚は湿気を含んでいます。容器内の炭酸ペーストに指で直接触れると、指先の水分で反応が始まり、容器内の炭酸ペーストにまで広がるおそれがあります。炭酸ペーストを容器から出すときは、直接指などで触れず、乾いたスパチュラなどで出し、目的部位に塗ってから、乾いた指などで擦り込んでください。

5.薄く擦り込むこと
 これは必要条件ではありませんが、炭酸ペーストを無駄に使わないための使い方です。
 炭酸ペーストは角層内に浸透して初めて、正しく作用が発生します。早く効果が出るように、より効果が強まるようにと、炭酸ペーストをたくさん塗りたくなるかもしれませんが、皮膚表面の炭酸ペーストはほとんど役に立ちません。皮膚表面が少しベタつく程度の量を塗れば十分です。顔全体に塗る場合であれば、およそ0.5gあれば普通は十分です。

6.一定時間後に拭き取るか洗い流すこと
 炭酸ペーストは二酸化炭素の発生原料を含んだ粘度の高い製剤です。粘度の高さは、炭酸ペーストを皮膚に塗ったときに垂れ落ちないためです。もっとも、単に垂れ落ちないためなら、いろいろな増粘剤が使えますが、炭酸ペーストでは特定の増粘剤を使っています。
 炭酸ペーストの処方設計目標は、二酸化炭素の発生原料を皮膚の中に持ち込むことです。これらの原料を角層内に浸透させることが炭酸ペーストのコアテクノロジーです。角層内で二酸化炭素の発生原料である炭酸塩と酸が皮膚の水分で溶解し、二酸化炭素を発生するように設計しています。
 さらに、角層内に浸透した製剤が、皮膚の水分でゲル化し、発生した二酸化炭素がゲルに溶解して溶存CO2の貯蔵タンクにもなることを想定しています。そうすることで、発生した二酸化炭素が空気中に逃散せず、またイオン化もしないで、分子状二酸化炭素として組織に効率的に吸収されるという設計です。
 コアテクノロジーに使っているカルボキシビニルポリマーやその誘導体は合成高分子であり、角層内ではほとんど分解されません。そのため、一度炭酸ペーストを塗った部分に炭酸ペーストを重ね塗りしても、すでに角層内に存在する貯蔵タンクに邪魔されて、新たに塗った炭酸ペーストが角層内に浸透できないと予想されます。したがって、角層内に残った貯蔵タンクを取り除かなければなりません。これは、通常のパック化粧品と同じで、塗ったあとは必ず、炭酸ペースト塗布部分をおしぼりなどで拭き取ったり、洗い流したりしなければなりません。
 もっとも、炭酸ペーストを一度塗ったあと、さらに塗らないのであれば、そのまま放置しても特に問題ないと考えられます。角層の貯蔵タンクは分解されなくとも、皮膚の新陳代謝によって、角層細胞が垢となって排除されるのに伴い、貯蔵タンクも角層細胞と一緒に除去されると考えられるからです。
 ふき取りや洗い流しの時間は特に検討していませんが、多くの日本人が毎日入浴するので、そのときに洗い流されると想定し、おおむね24時間以内に除去することをお勧めしています。

  炭酸ペーストの保管

炭酸ペーストの保管で最大の注意点は、湿気、水分を避けることです。皮膚のわずかな水分で反応するほどデリケートな製剤なので、お風呂場や脱衣室などの湿度の高い場所での保管は絶対避けてください。もちろん、使ったあとは、すぐにきちんとフタをして、容器内の炭酸ペーストが空気(湿気)に触れる時間をできるだけ短くしてください。

別容器への移し替えもやめてください。移し替え中に、空気中の湿気で反応が起こったりするだけでなく、容器の密閉性が低かったり、容器の材質が湿気を通すものであれば、容器内で炭酸ガスが発生します。

保管にはさらに高温も避けてください。ただし、冷蔵庫などで低温で保管すると、容器内の空気に含まれる水分が凝結して水滴となり、反応を起こすおそれがあるので、低温での保管も避けてください。